自由なかたちのガラスをつくる、力強くて優しい手

自由なかたちのガラスをつくる、力強くて優しい手

職人の手つきとは唯一無二のもの。長年培ってきた繊細な動きや手の癖によって、最良の仕事が生み出されます。

それぞれの職人にしかできない技こそが「職人芸」なのだとつい考えてしまうけれど、北海道・洞爺湖にあるガラス工房「gla_gla」の代表、髙臣(たかとみ)大介さんはこう語ります。 

「自分だけの技術なんてものは僕にはない。良い仕事を長く続けるために、手を常にいたわることだけが大事なんだ」

すすで黒く汚れた力強い両手は、まさに職人の手そのもの。それでいてその一挙一動は柔らかく繊細です。「僕がやっていることは、他の人にもできることだと思うよ」と謙遜した表情で笑う髙臣さん。「技巧」だけではない、いくつもの要素が彼の「すごい手」をつくりあげています。

海外でも人気を博す、gla_glaの自由なガラスのはじまり

爽やかな自然と広い空に包まれた北海道・洞爺湖。穏やかに波立つ湖を横目に、小高い丘を上がると、ログハウスのような温かい外観のgla_glaの工房が見えてきます。大きな木の扉を開けると迎えてくれたのは、白縁のサングラスと一本下駄を着こなした髙臣さん。ごうごうと窯からあふれる熱気など気にもとめず、淡々と作業をこなす姿は、まさにパンクなガラス職人。東京でガラスを学んだ髙臣さんが29歳で北海道に移り住み、gla_glaをスタートしたのは2002年。洞爺湖のほとりに工房を建てたのが始まりでした。

「父が洞爺湖に縁があり、工房を建てる場所があったのが、移ってきたきっかけです。以来、20年間この地で制作を続けています。20代前半、東京でガラスを学んでいた頃から、自由なかたちのガラスをつくるスタイルは変わっていません」
 

自由なかたち。髙臣さんのつくるガラスの器を表現するのにこれ以上の言葉はないでしょう。手吹きガラスの器たちは全て一点もので、ひとつとして同じかたちはありません。思い通りのものができると面白くない、常に実験や挑戦を続けていたいと話す髙臣さんの強いこだわりが、それぞれのガラスの器に見えるようです。

しなやかな手が生み出す、生き物のようなガラスの表情

髙臣さんのつくる器は、どれも有機的で柔らか。一般的な、シンメトリーで端正なガラス器とは全く異なります。細かな気泡が入った小皿もあれば、緩やかにうねるグラスもある。この自由なかたちを生み出すには、手の感覚が不可欠だと髙臣さんは言います。

「ガラスはよく動く素材。重力や遠心力ですぐにかたちが変わります。この独特な動きを上手く表現するには、わざと重心をずらしたり、かたちを歪ませる必要がある。まっすぐつくるよりも、ガラスを自由に動かすことの方が、よりコントロールする力が必要なんです。大切なのはガラスの柔らかさ。その塩梅を判断するのは目ではなく、手ですね。左手で竿を回す時の感覚、右手でガラスのかたちを整える時の重量感でガラスの柔らかさを感じとる。目には見えないガラスの動きを、手や指の感覚で見定めます」

 

力強く竿を回し、包み込むようにガラスを伸ばす……。しなやかでなめらかな、ガラスを操る髙臣さんの手つき。ガラスの自由なかたちを求めるならば、手に無理をさせないことが重要だと髙臣さんは話します。

「超絶技巧的なものはないけれど、とにかく自分が自然だと思う手の動かし方を追い求めてはいるかな。ただでさえガラスは無理な動きをするもの。こちらもつられて無理な手の動きになると、体がもたないんだよね(笑)」

 

物語を感じる、gla_glaの器

gla_glaの器は、かたちはもちろん、それぞれのアイテムにつけられた名前も魅力的です。髙臣さんは、新しい器をつくる時には、いつも名前から考えるのだといいます。 

たとえば、たっぷりとした厚底のフォルムが魅力のロックグラス「燃える男はロック!」。gla_glaがオープンして間もない頃に生まれたロングセラーアイテムです。これまでつくってきた器のなかでも特に思い入れのあるものだと髙臣さんは話します。

 

「このグラスが生まれたきっかけは、gla_glaと同じ2002年にオープンした洞爺湖のウィンザーホテル。ホテルのショップ担当の方が工房に来てくださって、『おみやげになる、洞爺湖らしいうつわをつくってほしい』とリクエストをいただきました。でも、当時僕はまだ20代。強がっていたこともあり『おみやげ品をつくるのは違うなあ』と断ってしまったんです。ところが実際には工房を建てたばかりで、お客さんもなかなか入らず、つくったところで届ける人がいない……。断ってしまった決断は本当に正しかったのか、ずっと葛藤していました。

するとしばらくして、今度はウィンザーホテルのバーの方がいらして、ロックグラスをつくってほしいと。ダメもとで、自分がつくりたいものをつくってみようと、完成したのがこのグラスです。そうしたらバーに採用され、その後、ショップの方にも再び、今度は僕のつくりたいものを持ってきてほしいと言っていただけた。あの時、それらしい"おみやげもの”をつくることを引き受けてしまっていたら、今のように思うように自由な器をつくることは辞めていたかもしれない。人生の分かれ道になったグラスです。流されず、自分たちのつくるものを信じるというものづくりに対する向き合い方を忘れないよう、自分へのメッセージとして『燃える男はロック!』と名づけたんです。今でも何かに迷うとこのグラスをつくり、初心を忘れないようにしています」

北海道の景色を題材にしたものも多い、髙臣さんの作品。そのひとつが、工房に併設されたギャラリーのテラスに吊り下がる「ヌプサムメム」です。滴り落ちる雫を思わせる透明感のあるガラスの塊は、札幌にあった泉から名前と着想を得たもの。季節を問わずこんこんと湧き続ける泉のように、髙臣さんがつくり続けてきた「ヌプサムメム」は、約10年間で1000本にも及ぶとか。今ではオブジェに留まらず、一輪挿しやロックグラスにもなっています。

「以前は人の暮らしや日常から着想を得ることが多かった。でも、洞爺湖で長く暮らしていると、人に会う回数が減ってきちゃって……(笑)。自然をテーマにしたものが増えてきたのは、環境の変化が大きいかもしれません。

とはいえ、インプットした光景をそのまま表現することはない。必ず自分のなかで妄想して、物語やイメージを膨らませます。『これは泉をイメージしました!』みたいなはっきりとした伝え方ではなく、常に曖昧さや余白を持っていたい。そのほうが自由に使ってもらえると思うから。”自由なかたち”をつくり続けているのは、そのせいかもしれません」

 

インスピレーションをくれる使い手の声

髙臣さんがこれまで手がけてきた器は250種類以上。特注品も多く、レストランから個人のお客さんまで、あらゆるリクエストが届くそう。お客さんからの声は、創作の原動力の一つだと髙臣さんは言います。

「ガラスに出会ったのは20代初めの頃。たまたま入ったギャラリーで見たガラスの作品に魅かれて始めたのがきっかけでした。じつは子どもの頃、美術が得意なわけでも、すごく興味があったわけでもないんです。ガラス一筋なので、今でも絵を描くのは苦手。美術のことなんて何も知らないから、どんなかたちが美しいとされているかを知る由もなければ、正直何をつくったらいいのかもよくわかってない。『こんなものが欲しい』とリクエストされることが、新しいものを生むきっかけのひとつでもあります」

ガラスが網目状に絡み合った半球体のような「花止め」は、生花店を営むお客さんからのリクエストで誕生したアイテムの一つ。ガラスで花を生けられるものをつくれないか? というオーダーを受けて試行錯誤の末に完成したgla_glaの人気商品です。

「これはお客さんの声で名前が変わったんです」と髙臣さんが持ってきてくれたのは「満月のロックグラス」。名前の通り、月面を思わせる細かな気泡が印象的なグラスです。

「実は、元は『月のロックグラス』という名前だったんです。そしたらお客さんからビールが入ったグラスの写真と一緒に『満月のグラス』なんですねとコメントをいただいた。下から覗くと確かに満月のよう。自分では全く思いつきもしなかったですね」

いちばん好きなのは、自分のつくったものが人の手に渡る瞬間だと語る髙臣さん。つくり手と使い手が繋がる瞬間はかけがえのないもの。使い手の声は、新しい器をつくるエネルギーになり、より厚みのある創作活動に繋がっていく。チームがいるからこそそれができると、髙臣さんは話してくれました。 

「一人だとできることは限られるし、つくるものも狭まってしまう。僕と二人のスタッフと、妻。gla_glaはチームだからこそ成り立っている。各々が自分の制作も行うので、つくるものや考えることも全く違う。自分だけでは生まれないものが、チームでならばできる。チームの存在は、自分の腕と同じくらいに制作にとって大切なものです」

しなやかな手振りでガラスを操る髙臣さんの手。その力強く優しい両手は、洞爺湖の自然や使い手の声、チームとの関わりなど、取り巻く環境を受けとめて、ものづくりに昇華する手でもあります。誰にもない技巧を突き詰めることだけが、つくり手の技ではない。髙臣さんが一番の仕事道具として大事にする「手」は、器ひとつずつに物語を込めることができる、唯一無二のもの。髙臣さんの「手」から生まれる自由で柔らかな器を一度手に取れば、そこに流れるストーリーをも、感じとることができるはずです。

 

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髙臣大介
Daisuke Takatomi
gla_gla代表。1973年生まれ。

2000年に東京ガラス工芸研究所研究科修了後、2002年にgla_glaをオープン。国内各所をはじめ、パリ・台湾でも国内外で高い評価を得る。

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